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ぎゅうぎゅうに並ぶ。急行次来るの?各停で行こう晴れてるし今日。

もううんざりだ。
空調の聞いてない通勤電車にも、体温が伝わってしまうくらいの密度にも、臀部に置かれてときたま動く知らない男性の手にも、すべてに呪いがかけられればいいと思って私は停車した電車から降りた。
今日の午前中は打ち合わせがない。もういいや。上司に「貧血を起こしたので、遅れていく」というメールを打ち、駅のベンチでうなだれる。横にはたくさんの人。次の急行を待つひとたち。
もううんざりだ、と私は小さくひとりごち、うなだれた。

「大丈夫?貧血ですか」
目の端にプリーツが揺れ、見上げたところによく知った黒目がちの目が、差し出されるパピコ
「すごい汗だから片方どう」
「ありがとう」
でもそれはいらない。食べ終わるまで電車に乗れないから。
とだけ伝えてから、好意をむげにしてしまったな、とチクリと胸がいたむ隙も与えず彼女はさらにパピコを差し出す。
「いいじゃん乗れなくても。」
めっちゃ人いるね。と笑いながらパピコを咥える彼女の襟とリボンは時折吹く風にはためいて、紺なのにまぶしく感じる。若さ。
「学校は」どうしたのという言葉は彼女の冷たい唇に阻まれる。
「さぼっちゃったー」
あ、これはね、ほら昔あったんでしょそういうCM。
それはうばっちゃった。パンダ。しかし
「人がいすぎて、みんな周りを見ないね。」
わたしたちが唇を合わせていても、全然気づかない。

パピコの先を軽く噛んで、ちゅうちゅうと吸う。
彼女は私に笑って言う。
「しばらく待ってから各停で行こう。いい天気だし」

あんたとは向かう先が違うのに。と笑って頭を撫でた。うんざりという気持ちはいつか消えて、気持ちだけは軽やかになる。


そう、向かう先が違うのに。

鉄道少女漫画

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中村明日美子先生の絵で思い浮かんでたのは、きっとこの漫画が原因だと思います。tankanome.hateblo.jp