ミックジャガーの引き出しがある、父の書斎の話

私が小学校高学年まで住んでた家は、隣の家まで100mほどある遊覧道路沿いにあった。
玄関から入って左が居間、右が私と弟の勉強部屋、居間の横に家族全員で寝ている部屋があり、そして玄関から一番奥の部屋が父の書斎だった。
書斎というのは言い過ぎなんだけど、そこには父の文机が置いてあり、いろいろな本や文房具が机に置いてあり、そこで小さな宝物を見つけていくのが楽しく、野原で遊ばない時、そして父がいない時、私はその机に向かって何をするでもなく、わきにある引き出しを開けたり閉めたりしていた。

そのとき父の机の引き出しにあったのが、ミックジャガーのカード。
今となっては何のおまけなのか全然わからないのだが、私が、はじめて触れた洋楽の、とてもかっこいい、男の人だった。
もちろんその時はミックジャガーがどのバンドの人なのかなんてわかってないんだけど、ものすごくかっこよくて、大人になったら絶対にミックジャガーに会いに行きたい、ということを考えながら、またその引出しにカードをそっとしまいこんだ。

ある日、ふとトイレに行きたくなって夜起きて、一人でトイレに行ったときに、書斎から小さく明かりが漏れているのをみた。父も母も、弟も、私の隣で眠っているはずだから、電気の消し忘れかもしれない。しかたないな、おねえさんだから私が消さなきゃ。あ、ついでにこっそり、もういちどあのかっこいい男の人のカードを見よう、と幼い下心を胸にそっと書斎に入った。

入った部屋は、緑色に光っている。
これは、電気の明かりではない、ここに居てはいけない、絶対に。と思った瞬間、ふすまがいきおいよく閉まる。なんで?私は、閉めようとしていないし、できれば、出たい、今、すぐ。
明けようとしたふすまに照らし出されるお経。
お経の文字なんて、たぶんその時は耳なし芳一の挿絵でしか見たことないはずなのにわかった。お経の文字は、回転行灯のようにゆっくりとゆっくりと回る。
ふすまは開かない。近くで寝ている家族を起こすわけにはいかない。
ただ、今、後ろを振り返ったら。部屋の真ん中をみてはいけない、という気持ちがものすごいある。だって何かがいる。

振り返っちゃいけない、振り返っちゃいけない、でも、いま、ふすまがあかない、あかない今、この部屋からでるには、背中側の窓しかなくて、でも。

覚悟を決めて振り返ったそこには、真黒な馬に乗った、甲冑を付けた何かがいた。
そこまでは覚えてるのだが、その後のことはわからない。たぶん夢だった。


その後から、私は夜、父の書斎に入るのをやめた。
ミックジャガーのカードの行方は分からない。


今週のお題「ゾクッとする話」


そのほかの怖かった話はこちら。
でもなんだかんだで生きてる人間が一番怖いよね。

xacoux.hateblo.jp
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